青いインクとグラスワイン
 音楽を聞きながら、即興で書いた文章です。少々新しい試みなので、一風変わった作品になりましたが、短めなので、読んでみてください。感想などいただけたら光栄です。


俺の主人が俺へ言った。
「あの晩、お前がミス・ピドナと踊るとはな」
音楽がかかる。

 最後に部屋に残ったランプが消えて、夕暮れは夜を迎えて。明るい場所で食事をとるひとたち。わからなくなって、わからなくなって。夕暮れは過ぎて、美しい花 美しい花 美しい花、あのひとは何処にもいない、姫の手を握るのは誰? 俺と同じ姿の、違う他人と、美しい遠く近い国の華やかな笑顔。いったい何処へ?
 明るい場所での食事が終わり、窓の外 月は明るくなのに照らさず、何かにとりつかれた俺は一杯のワインで貴女に酔わせて欲しいと願って、眠れなくて眺める庭の雪、月明かり照り返して輝く。
 遠く近い国の遠く近い姫君の揺れる髪のひかり足元の雪。俺は見つめる、夢中なそのステップ、相手のいないダンスなら。昼の現実? 昼の夢? 俺と同じ姿の同じ他人の、踊ったのは誰、王子様、俺じゃない。
 綺麗なものは世界にあふれ、この場所にもいくつも存在し、雪に月に踊る姫君に、なのに心満たされず、今日でもない明日でもないこの夜という名の空間、ただあきらめて眠るだけならば。
 時計の脇に置いてある箱の中の薬を取ろうとして中身を落とし、床に散らばる闇と淡い光に呼吸せきとめられて、明るい場所で食事する人達失せて、何かの物音に肩を丸めて驚いて、そこへ見にいくことを拒み、カーテン揺らす月の光に向かって冷たい風に体振るわせ、窓の外、雪のうえ足跡だけが残され、夜を迎えて、夜につかって逃げて逃げて逃げて朝の意味を見つけられずに、グラスの中の赤が血を思わせて一気に飲み干して、時が動く時が回る、貴女に酔って夢を見たい。
 外へ出て、残された足跡だけ見つけて踊る。明日いったい誰と踊るの? 俺と同じ他人の違う自分の王子様は貴女のいったいどういう相手なの? 笑顔の相手を思い出せるの?
 グラスの中の赤が血を思わせて、俺は夢中で踊って、時を止めて、時を止めて、貴女に酔って、向きも不向きもわからない。
 俺は貴女と踊ったの? 二つ残された足跡、時の差額を計算できずに、踊ったの誰と、踊ったの貴女は知ってるの誰と踊ったの、俺と同じ他人の違う他人の王子様と見分けがつくの?
 朝が来る朝が来る朝を拒んで、理由のわからない怖い悲しい心が失われていく俺は夢中に見る雪の上の足跡。誰かと踊ったの貴女は知ってるの? 月は明るく、なのに照らさず、何かにとりつかれた俺は疲れを知らないダンスの足跡は誰のもの?
 お姫様、お姫様、遥かなるお姫様、遠く近い国の美しいお姫様。
 そんな夢がふけてゆく。俺は影あのひとの影。踊ったのは俺なのか、俺と同じ姿の違う他人だったのか。

 音楽が終わって、夢が醒める


[ No,195  ランカーク様 ]

-コメント-
 よく考えたら、ロマサガ的要素うすすぎ…。
 でも変わった作品でしょ?