ある晴れた日の陽気なピドナの街角で・・・。
街の一角、旅人や市民達が行き交う大通に、一回り大きく黒髪で褐色肌の体躯の傭兵らしい漢が口笛を吹きながら歩いていた。
そして、漢は時間を持て余していた。
ふと、目線を空から街に戻したのだった。
何も宛てなくただ街を彷徨ように歩いている長い黄金の輝きを持つ金髪を惜しげ無く纏めていた痩身の青年が彼の目の前を通り過ぎて行こうとしていた。
漢は、自分がよく知る好意を持つ友人の一人である事に気が付いたのだった。
「よう! ミカエル、元気だったか!」
とっさに、陽気な口調で声を掛けたのだった。
ミカエルと名を呼ばれた金髪の青年は、宙のような青い瞳を怪訝そうに向けた。
「ハリード、何故ここに?」
ミカエルは、声の主が良く知る知人であり、思わぬ場所での再会を驚きつつ眉根を寄せていたのだった。
「ハハハ・・・偶然だよな。 お前、またお忍びか?」
ハリードと呼ばれた褐色肌の傭兵は、金髪の青年の様子はお構いなく陽気な口調で応じながら、余計な一言を言うのだった。
「”また”は余計だ!」
ハリードの要らないツッコミに対して怒るミカエル。
「なぁ、そうカッカするなよ。 お前と俺の仲じゃないか」
怒りをさらりと受け流して、余計怒らせるような言葉を紡ぎ出し収拾つきそうも無い。
「お前といつ仲良くなったのだ?!」
半ば、キレ掛かったミカエル。
「そう細かいことを言うなよ。 それとも、俺と義兄弟の契りでも結ぶか?」
キレたミカエルに微笑むハリ−ドは、気軽に義兄弟に契りをにべもなく言い。
「断る!」
まさに即答だった。
「つれないことを言うなよ」
食いつくようなハリードは、しつこそうだ。
「・・・で一体、私に何の用だ?」
冷静さを取り戻したミカエルは、慎重に腹を探るような口調で用件を切り出した。
「別にない。
お前が街をフラフ〜ラと歩いていたから声を掛けただけだ」
即答と同時に、言わなければ良い事をついでに答えた漢ハリード。
ハリードの余りな返事にミカエル。
「だったら声を掛けるな! うっとうしい!!
“フラフ〜ラ”は、失礼だ余計だぁっっ!!!」
冷静沈着な切れ者として有名なロアーヌ候と異名を取る彼なのだが・・・。
怒りが爆発したようで、思いっきり街中で怒鳴り散らすのだった。
「うっとうしいとは・・・。 お前、友達が減るぞ」
ミカエルの怒鳴り声に全く意を介さないハリードは、言ってはいけない一言を浴びせた。
「余計なお世話だっ!!」
怒って当然である。
「そう寂しい事を言うなよ」
気軽にミカエルの肩に手を置こうとする。
ミカエルは、ハリードの褐色の手が肩にゆっくりと近づいてくるのを見つめていたが。
「馴れ馴れしい・・・気持ち悪いぞ、お前バカか?」
感情の篭もらない口調で言うのだった。
「お前って・・・言いたい事をはっきり言うんだな。
バカは、ひでー。 そりゃ無いだろう」
傷ついたと言わんばかりの口調でハリードが囁く。
「当たり前だ。 お前に関係ない」
睨みながらミカエルは、きっぱりと言い返した。
だが。
「そこまでムキになるという事は・・・俺が気になるのか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべて、肩に手を置こうと更に近寄りつつあるハリ−ドの手。
「馬鹿者!」
ハリードの思わぬ言葉に怒ったミカエルは、電球に光が灯ったような底意地の悪い閃きを笑みに変えた。
そして、予備動作なくポケットから光る物体を軽く投げた。
―――チャリーン
金属の物体が地面に向かい、跳ねて透き通るような甲高い音が響いた。
音と同時に守銭奴ハリード、金属の物体目掛けて飛び込んでいき。
「カネめっけぇっ! 俺のモン!!」
ミカエルが地面に放り投げた1オーラムに勢い良く拾いに飛んだハリードを冷たい眼差しで見つめていたミカエルだった。
「アホめ、一人でやっていろ」
冷めた口調で、バカバカしいと言うような態度で呟く。
そして、その場を静かにスタスタと歩き去ったのだった。
お・し・ま・い
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