The Flash Of Life〜Swallow's Blade
おい、海底宮行くんじゃねえのかよ? なあ?!
そう訊ねたが無駄だった。
そいつは「まあまあ、先にやることがあるんだから」とか言いつつ駄々をこねる俺を引きずって、バンガードから遥か遠くのピドナまで連れてきやがった。
そうか、まずは装備を揃えようってんだな?
そう思えば納得できた。
ピドナは商業が発達した町であるということぐらいは俺も知っていたから、そうなんだと思った。
だが、そいつは首を横に振った。
「お前にやってもらいたいことがあってな。斧・棍棒技閃き適性の高いお前にな・・・」
おいおい、何だそりゃ。聞いてねえぞ。大体閃き適性って・・・。
「これから魔王殿に向かう」
はぁ!? 待てよオイ、俺たち2人だけでアラケスに勝てると思ってんのか!!? 大体まだHP200台だし・・・
「だから行くんだ。しっかり仕込み杖振るえよ」
・・・意図がようやく読めた。
こいつ、俺に抜刀ツバメ閃かせようとしてやがる。
抜刀ツバメ返し・・・棍棒技の中では最高の威力を誇る技で、俺のついてるこの仕込み杖で実践可能だということは知っている。
でも、そのやり方を覚えるには大変な苦労が必要だとか。
・・・でもだからって、魔貴族に叩かれに行こうって言うんだからこいつは。真性のMじゃなかろうな?
「大丈夫、勝てなくても放り出されるだけ」
大丈夫じゃねぇよ! てめえはいいだろうがこちとらLP4しかねーんだぞボケ!!!
「途中の戦闘全部逃げるから」
そういう問題じゃねえっつの!! アラケス戦で殺される可能性もあんだぞ!!!
「もー、聞き分けの無い奴だなー。実践実践」
おいちょ、待てやゴルァ!!!!!
・・・そんなわけで、俺はハリードとともに渋々魔王殿まで来た。
ハリードは本当は独りで気儘に旅がしたかったらしいが、残念ながらフォルネウスの6文字を聞いては左足の創が黙っていられない。
大仕事も終わったしーと水割りを飲み干しつつ、パブで次々仲間と別れているのを俺は横目で見ていた。
それでマスターが俺にパーティから外れた方が身のためとかいう話を持ちかけたとき、俺はきっぱり「けっ」と喋ってやった。
冗談じゃねぇ。俺はフォルネウスを殺る。
ハリードは断った俺を見て呆気にとられたような顔をしてたが無視した。
その後も各地のパブでそんな話をマスターから持ちかけられたが、全部「けっ」とだけ返答しておいた。
大体、他の奴には故郷の話とかもちかけるのに、何で俺にだけ「ご老体に無理は良くない」とかいう話をしやがるんだパブのマスターは?
フォルネウス倒し次第、全員まとめてマキ割ってやる。
・・・で、その断り続けた末路がこれか。
きっと抜刀ツバメを覚え次第、某吟遊詩人のように謀殺されるんだろうな俺は・・・。
さっきも言ったがLP4しか無えし、殺るチャンスはいくらでもある。
何よりアラケス戦が終わって放り出され次第どっかで戦闘すれば、確実に一発でオダブツだ。
ちなみに只今、戦鬼のうようよしている部屋を通行中。
「ぎゃあぁぶつかった! 退却退却!!」
ってオイ、後ろ! 来てる!
「あわわ、こっちもか!? 逃げろー!」
逃げろったってこの狭い通路でどうするよ!?
「いいから突破口どうにか開け!」
無茶抜かせー!!
・・・・・・それでも生きる意志ってのは強い。
デカい戦鬼の間をすり抜け、どうにかこうにか次の部屋にたどり着いた。
そこには例のアビスゲートがあった。とすると、アラケスが出るな・・・。
「あ、これがアビスゲートか。早速閉じよう」
おまっ、待て待て待て! まだ準備が・・・!
「あ、そういえば。ぬか喜びしないように技装備欄埋めたか?」
・・・いや、そういう問題じゃねぇよ。
「俺はひとつぐらい空けとくな。ブレードロール見切りは任せとけ」
えっ、要はそれ俺だけ大回転で死ねってことか!?
「俺が前でパリイしててやるから・・・俺が倒れても気にするな。お前は攻撃だけ考えろ」
いや、ハナからそうするつもりだが・・・でも悪いなハリード、いくらお前の思いつきとはいえ、庇ってくれるなんてな・・・
「・・・何としても抜刀ツバメ閃けよ」
・・・・・・その一言さえ無けりゃ、もの凄ーく感動モンなんだろうがな・・・・・・。
アビスゲートに近づいた瞬間、アラケスは姿を現した。
『血を流せ!』
アラケスのやきごてをハリードがパリイで封じ、出鼻を挫いたところで俺の出番。
思いっきり仕込み杖を振るってみたが、抜刀のタイミングがつかめない。一撃目は失敗に終わった。
「・・・ハーマン! 前ッ!」
見ればアラケスのでかい剣が迫ってきていた。
咄嗟にスパイクシールドで弾いたが、剣の風圧で盾に隠れられなかった部分に細かい傷を負った。
「次は・・・次こそは閃いてくれよ!」
無茶言うな。あんな技俺には高等すぎる。
続いてアラケスはハリードに剣を振るったが、ことごとくパリイで弾かれた。
・・・俺ばっかり傷負って、しかも抜刀ツバメ覚えなきゃならなくて、前に居る奴が無傷とか・・・人生って不公平だよな。
そうぼやきたかったが生憎余裕が無い。振っても振っても抜刀のタイミングはつかめなかった。
そんな時だ、ハリードがファングクラッシュを受け流し損ねてもろに食らい、一発で倒れた。
ハリード!!!
叫んだが、血に濡れた身体はぴくりとも動かない。
急所に当たったのか。それとも・・・まさか・・・死んだか?
「ハァッハッハッハ!!」
アラケスの下品な高笑いが聞こえるとともにブラックジャックで殴られ、意識が遠のく。
頭への当たりどころが悪かったのか、衝撃というよりは睡魔に襲われたような感覚がした。
片膝をつき、身体を支えている仕込み杖から手を離して倒れそうになる。
だが、ここで倒れてしまったら、どうなる?
俺にはまだ、ここでやることがある。
命を張って、それをやらせようとした奴がいる。
そいつのお陰で、今俺はここにいる。
だから・・・倒れてなんかられねえんだよ!!!
半ば頭の中が真っ白なまま、義足をバネにして勢いよく立ち上がり、そのままアラケスに突進する。
そしてふっと、いつ抜刀すればいいかが分かった。
余計な力を抜いて、それに忠実に行動する。
抜 刀 ツ バ メ 返 し !!!
俺の一閃がアラケスの右腕に傷を負わせるのを見た後、俺は精根尽きてそのまま気を失った。
「おい、ハーマン、生きてるか?」
ん・・・何だよ五月蝿えな・・・死に物狂いで抜刀ツバメ覚えた奴に向かってその言い草は無えだろ・・・。
「えっ!? 本当に閃いたんだ!!?」
当たり前だろ馬鹿野郎!! それとも何だ、俺じゃあ無理だと思ったのか? ああ?!!
「いや・・・そうじゃないけど・・・」
分かったならとっとと仕込み杖持ってけよ、ほら。
「え? 何でまた?」
何でって・・・お前、俺が抜刀ツバメ覚えたら、とっとと殺す気だったんじゃねえのか?
「は? 殺す? 何で俺がお前を?」
だってよ、自分で言うのも何だが俺、LP4だぞ? 腕力も魔力も中途半端だぞ? それにもう抜刀ツバメ覚えたし、他に用は無いだろ?
「何言ってんだよ、心配するなって。海底宮のフォルネウス倒させてやるから」
・・・じゃあ、それが済んだらやっぱり俺はお払い箱・・・。
「馬鹿言うなよ。俺は一度もお前を殺したいなんて思ったことは無いぜ。お払い箱なんてとんでもない、お前がいたから勝てた戦闘だってあったわけだし」
・・・・・・悪りい、俺、何だかすげえ卑屈になってた。
「はは、気にするなって。さ、宿代も心許ないしアケまで泊まりに行くか!」
ってヲイ! 俺歩く気力無いし!! 死ぬ死ぬ死ぬ!!
・・・というわけで俺は、性懲りも無くハリードにくっついて旅してる。
でもこの旅もまだ、始まったばっかりだ。
これから先も色々あるんだろうが、ハリードは自分を謀殺する気が無い、ってことを信じて、もう少し旅しててもいいような気がする。
その、何だ、それだけの話だ。
<あとがき>
・・・実に1年ぶりの小説です(汗)
自サイトの履歴見たら06年11月から全く小説を書いていない事実に気づきました・・・。
今回は今実際にプレイしているスタイル「レッツゴー!問題児2人旅」をベースに一気に書き上げました。実際、流石に一発ではありませんでしたが、対アラケスで抜刀ツバメも閃きました。
ただしここで実用性を重視するプレイヤー(ハーマンが心の中で思い込んでいたハリード像)であれば、とっとと仕込み杖だけ奪ってハーマンを謀殺してしまうと思うんですよ。もしくは、海底宮に行ってブラックにしたら即、オサラバとか。
でも、自分(小説で実際に描かれているハリード)は断じてそんなことしません。まあ自分はハーマンが好きだからそうしているのですが、ハリード視点で見ればこんな意味で一緒にいるのかなーとかかなり自分に都合のいい設定付けてしまってます(滝汗
最後に、このような拙文をここまで読んで下さった方に感謝申し上げます。
[ No,655 林香竜騎様
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