たよれるシノンのリーダー☆



トーマスは、シノンの若者達のよきリーダーである。
しかしどちらかというと、先頭に立ってバリバリ指揮を執るよりも、みんなの後ろで安全を確保しながら指示を出す、的なタイプだ。
そんなトーマスは、今回もまたリーダーに任命されていた。
エレン『あんなおっさん(ハリード)なんか信用出来ないんだから、トムが仕切ってちょうだいっ!!!』
苦笑いで了承し、いつものようにみんなの後ろで安全を確保するという役割についた。



モニカ姫を、シノンからロアーヌ軍の遠征先へ護衛する…というたいそうな役目。
「ユリアン様のご実家は、農業を営まれているのですか?」
「はっはい!ミカエル様のお陰もあって平和にやってます!」
「わたくし、王宮の内庭でお花を育てていますの。けど、芽が出なかったり、葉が出ても枯れてしまったり…
 なにかアドバイスを頂けたら嬉しいですわ」
「あっ、花のことだったらサラのほうが詳しいですよ!なっサラ!」
「う、うん(もじもじ)」
手前の三人は、平和そうだった。
このシノンの森にはゴブリンや地狼が棲みついているので、武器でも構えておかなくてはならないはずだが…

「うぉりゃあああああああ!!!!!!!」

ザシュッ!!!

手斧がゴブリンを斬り払った。
エレンの斧・棍棒Lvがアップ!

「うむ、素質はありそうだ」
「あんたに言われなくてもわかってるわ!おっさん!!」
「ほれ、次があっちにいるぜ」
「べっつにいいけどおっさんもその腰に下げた飾りを使ってみたらどうなの!?」
「お前の腕前をもう少し観察したい」
手前の三人(と、トーマス)が平和なのは、先頭の二人がゴブリンや地狼を全部片付けているからだった。
ハリードが上手くエレンを操縦して、八割はエレンの手柄だろうか。
「とうっ!!!!」
ゴキャッ!!!
ローリングソバットが地狼をなぎ倒す。
エレンの体術Lvがアップ!

「やっぱりわたし達は、農業をやっていて、いい土がたくさんあるから、それでよく育つんです…(もじもじ)」
「確かに、おっしゃられる通りですわね。王宮の内庭の土では栄養が足りないんだわ…」
「あっあのー、モニカ様、肥料の作り方とか、俺が教えますよっ! そんなチャンスがあれば…あはは」
「まあ!本当ですの?ユリアン様!」
「ひどい…お姉ちゃんからあっさり乗り換えるなんて…(ぼそぼそ)」
「どぉりゃあああああああ!!!!!!!」
「素質はあるな」
「あんたさっきからそればっかりね!!」
「よそ見をするな、次だ次。お、ガルダウイングがこんなところに」
「この斧の錆にしてくれるわ!!!!!」
みんなの後ろにいるトーマスは、安全を確保しながら賑やかな光景を生暖かく見守っていた。



(中略)



吸血鬼レオニードの城へ行ったり、ロアーヌ軍に加勢したりして、オープニングイベントは終了した。
あの賑やかなメンバーは再び、ロアーヌのパブに顔を揃えている。

「そういうワケだからさ、俺、行くよ!」
「そ、そう…」
「じゃあなー!」
モニカ姫の護衛隊に入る事になったと告げ、ユリアンはパブを出て行った。
シノンの面子が一人欠け、残された三人は後姿を見送った…が。
その中でもエレンが、殺気立っている。

バコン!!!   ゴトン、ゴト…

「何よあいつ!ウキウキしちゃって!!」
エレンが机を殴りつけた振動で倒れたグラスを、トーマスとサラが片付ける。これは割と日常的な出来事である。
「エレン、彼も大きな仕事を与えられて張り切ってるのさ」
「そうかしら!?キレイなお姫様にデレデレしてるふうにしか見えなかったけどっ!?」
ユリアンはつい先日までエレンにご執心で、熱心にデートに誘っていた。
恋愛には発展出来ない…と言ってはぐらかし続けた彼女も、流石に面白くないらしい…。
「彼も君も、俺だって、自分の進むべき道を探る年齢でもあるだろう?
 国に仕えるなんてこの上ない契機なんだから、断らない手はないよ」
「………」
殺気立つエレンが本当に“気”のようなものを立ち上らせているように見えて、トーマスは眼鏡を台ふきで拭いた。
こぼれた麦茶を拭いた台ふきはひたひたになっていたので、余計見えづらくなってしまった。

「あのー、お姉ちゃん…」
「何っ!?話ならシノンに帰ってからよ!!」
「それなんだけど、わたし、シノンには帰らないわ!」
「……はぁ???」

カシャン…
「あああ、メガネメガネ」
眼鏡を拭いていたトーマスが、サラの発言に突然慌て出した。
「ま、待て、サラ…」
「トムといっしょにピドナへ行くの!」
「何言ってんの、あんたみたいな子供が遠出なんてするもんじゃないのよ!」
「サラ、今のエレンにそれを話すのはまず
「トムはいいよって言ってくれたもん!」
「トム〜〜〜!!?どういうこと!?」
「あはははは」
みんなの安全の前に、自分が危ない…と、トーマスは眼鏡をかけずに胸ポケットへしまった。
「トムは悪くないわ!!」
「あんたはいっつもトムトムトムトム言って!甘やかしてくれるから好きなんでしょ!」
「…そ、そうよ、好きだもん…(もじもじ)」
「あたしみたいにガミガミ言うのはイヤっていうことね!!」

姉妹は勢いよく席を立った。
眼鏡を外しているトーマスは、エレンが本当の本当に“気”を立ち上らせている事に気づかない。
「ふ、二人とも、落ち着いて…」
気づかないままで、二人の間に割って入ろうとした。

ゴォッ!!!

「わ……」
見えない力に弾かれ、後方へ重心を持って行かれたトーマス。
それで事の重大さに気づいたが、既に遅かった…。

エレンは体術の構えを取り。
サラは弓に矢を番う。

「おっお客さん!!」
「エレン!サラ!」



「タイガーブレイク!!!!!」

「プラズマショット!!!!!」


カッ……

バゴォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!




二つの力が衝突。
凄まじい光と衝撃の後、パブの笑顔もグラスの氷も、トーマスの冷や汗も、何もかもが白煙に包まれた。
「………」
店主がぽかんと口を開けて突っ立っている。
その目線の先には、壁であったはずの場所から見渡せる、ロアーヌ城下町の中央通りがあった。

“気”を纏って体ごと突撃をかけたエレンを一瞬、いかづちの力が包み込んだが、その“気”がバリアとなったらしい。
サラの放った矢も折れて床に転がる。二人は無傷だ。
「…やるわね、相殺するなんて…」
「お姉ちゃん、皮肉ね。血筋だわ」

吹き抜ける風が沈黙を連れてやって来て、同じ色をした姉妹の髪を流す。
───初めて見たわ…
サラが弓矢の扱いに長けているとは、エレンも当然、認識していた。
が、狩猟のための技能を超え“弓術”にまで昇華させていたと、あろうことか自身との対戦で知らしめられたのだ。
───面白いじゃない!
エレンはそんな台詞を表情に湛えながら、右の拳に“気”を溜め始めた。
風は瓦礫の粉塵を巻き上げ、舌に苦い。

「けど、二発目に耐えられるかしら?」
「いくらでも。…でもね、先に弾切れを起こすのはお姉ちゃんのほうよ!
 消費技ポイントの差がある上に、器用さが高い分だけわたしのほうが技ポイントの上昇率が高いんだから!!」
「サラ!!それはあたしが得意武器を体術に設定して器用さを13に下げたのを小ばかにした発言ね!!?」
トーマスの手が、次の矢をクルリと回すサラの腕を引っ掴んだ。
「さ、サラっっ!行こう!ピドナに!なっ!」
「トム、こわかったよ〜」
「えっエレン!サラの事は俺にまかせて!じゃ!」
「待ちなさいよォォォ!!!!!」
強引にケンカを中断させたトーマスはサラを連れ、ぶち破られた壁の穴ではなくて、きちんと入口の扉から出て行った。



「どいつもこいつも!!」
「あの〜お客さん…」
「話しかけないで!!」
店主はメモ用紙に、たくさんマルが並んだ文字列を走り書きした。
「なになに?一回表に5得点するも、その後はピッチャーに抑え込まれてゼロ行進がつづ
「違います、弁償して下さい」
「………」
エレンは我に返った。これは昨日の巨人戦でなくて金額だ。
「あのメガネ野郎あたしに押し付けて逃げやがったな…、ん?」
エレンは何かを思いつき、ある方向を見た。カウンターに座っていたハリードの方向をだ。
「マスター、あのおっさん金持ってるわ」
「俺は無関係だろ」
「あのね、あたしにさんざん自慢してたのよ。金持ってるって」
「俺は無関係だって」
「お客さんの事情まで知りませんよ。支払えるならお願いします」
「おい…」

店主の取立ては思うより何倍も厳しく、また街の保安官までもが顔を出しに来てしまった。
ハリードは、それはもう高額な支払いをさせられたのだった。
そのハリードの手が、エレンのポニーテールを掴んで持ち上げた。
「いたっ」
「エレン、お前は俺と一緒に来い。今の分は体で払ってもらうぜ」
「このあたしを手篭めにしようなんざ300年早いのよ!」
数日前に出逢ってからずっと温厚そうに振舞っていたハリードが、初めて厳しい目つきをした。
エレンが怯む。
「誰がお前みたいな色気もへったくれもない小娘に手をつける。
 その右腕でだ。傭兵仕事ならお前にも出来るだろう。
 今メッサーナは内部のごたごたでいがみ合ってる。仕事はいくらでも出てるんだ」
「………」
「………(じーっ)」
「…わ、わかったわ、やるから…」
「場合によっちゃ、さっきの意味で体で払ってくれても
「失せろ変態」
「えー、近頃はファルスとスタンレーが戦を繰り返しているそうだからな。そこへ向かうぞ」
「…やるけど… でもね、ハリード…」




トーマスは、サラの後ろで安全を確保するという役割を果たしているところだ。
ミュルスからピドナへ向かう船上にて。
「トム!トム、イルカよ!」
はしゃぐ声に誘われて、サラの後ろから隣へ。
「船と一緒になって泳いでるみたい!すごーい」
「…店の弁償しなくちゃまずいのかな… でも俺じゃないしな…
 お祖父様に、俺があの場にいたなんて知れただけで、ただじゃ済まないんだろうな…
 黙っとこ…」
「なに?どうしたの、トム?」
「いや、なんでもない…」

祖父の命でピドナを訪れたはずのトーマスは、その祖父からの手紙でシノンへ呼び戻されていた。
「トーマス、これはどういう事だ」
「は、はい… その… エレンとサラが…」
「金額もそうだが店に多大な迷惑をかけた事、ベント家の恥だぞ。お前はこの22年何をして来たのだ!」
「…はい… 申し訳ありません…(涙)」
エレンがハリードに『トムの実家は金持ちなのよ』と吹き込んだらしい。
請求書はハリードからで、一応は半額になっていて、あの時の状況を添えてあったが。
「あ、あの… その… エレンとサラが…」
「男が言い訳をするな!あと五年、シノンに残って根性を叩き直さねばならん!」
ハリードの状況解説はとっても雑で、誰がどういう流れで…という部分にまでは及んでいなかった。


「ひどいや…」


ずっとみんなの後ろで安全を確保していたシノンのリーダーは、みんなの尻拭いまでさせられた。

後ろだけに。




END




【書いた奴のひとこと】
普段はハリード×エレンという偏ったお話を書いているので、久々にフラット(?)に行ってみました。
トーマスが主役のつもりで書いてみましたが、いまいち目立てていなくて申し訳ありません…
しかもかわいそうな扱い… しかもカーソン姉妹のキャラの濃さに対してオチが弱すぎる…